世界の変へ方 鈴木良明
飲食(おんじき)の果てに生(あ)れたる満足を水に流して食器を洗ふ
平成の空腹は腹が減るでなしこころの空(す)きて埋めむとすなり
野良猫と放置自転車あかつきの路肩に並び月に射たるる
ひもじきが先の筈だが恋猫の夜に入りてバトル狂ほしきまで
根つからの平和主義とは日常を自ら平和でありつづけること
横しまな旗は縦縞に変へてしまふマギー司郎の世界の変へ方
言葉さへ与へられずば幸不幸わからぬ畑の草を引き抜く
自らの美に気づかざるものたちを花とよびては散るをかなしむ
山羊二匹〈そら〉と〈みどり〉と名付けられ草食むすがた沿線にみゆ
にんげんは地中せいぶつ大江戸線地下四十メートルの六本木駅
夜の明けぬ闇の底から坑夫のごと頭(づ)の明かり点すジョガー顕はる
きつければ先ゆくランナーのゼッケンの一桁づつを足して走りぬ
作家紹介
- 鈴木良明(すずき よしあき)
一九五〇年、茨城県生まれ。
「歌林の会」所属、歌集『ランナーと鳥』