虹の根 古谷智子
いくたりの死者呑みこみて相貌のいよよ青める秋の高空
丸谷才一、連城三紀彦、天野祐吉 十月の死者みな破調なり
六十五に八十七に八十の死者の無念の嵩(かさ) 反比例
鋭(と)きこころ編みこみいつしか綾織(あやおり)の布の滑(ぬめ)りのごとき文体
紅葉のいまだあはき世去りゆきぬ神無月とは神恋ふ月か
つぎつぎにいのち溶けこみ混沌たる天のるつぼは蜜のごとしも
風邪の神ひつそりすわる喉がらりがらりと開けぬ言(こと)問ふたびに
思ひ浮かべる胸部写真の喉もとの影ほの白し咳きこむたびに
うがひ薬「ガーグル」可笑しそのままの音にころがす夜ごと朝ごと
押しよせる仕事に大波小波ありわらべのやうにつんのめる秋
豪雨より雹にうつりぬブログなる車窓にこころ運ばれてゆく
高速を駆る視野ながれ雨ながれ行く手はるかにかかる夕虹
嬌声のきこゆるごとし虹の橋をつぎからつぎにくぐる車窓に
虹の根をうつすブログのほんのりと靄たつごとし裾ひくごとし
高速道またぐ虹の根あらくさのなかよりたちてあらくさに消ゆ
作者紹介
- 古谷智子(ふるや ともこ)