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禱るひと    安田百合絵

  • 投稿日:2017年05月06日
  • カテゴリー:短歌

短歌安田

禱るひと   安田百合絵

胸ふかく咲き満ちてゐる春愁をそよがせて午後の樹下を歩めり

いはばしり激つ恋慕にあらざれど春のうしほのごとき逢ひたさ

もの言はずわれを目守まもれる時間にも慣れて窓辺に零るる辛夷

くきやかに骨のかたちを見せながら息吸ふときに喉は隆起す

闇充てるうろより風を送り来し電車に乗せてひとを帰せり

ゆく道に気づかざりしを戻りきて昏れなづむ白木蓮はくれんに打たれき

水面みなもから飛花が水底へとしづむ神のまばたきほどの時の間

情念はもだふかくあり十四年耐えてラケルを娶りしヤコブ

読みゆけば心はつひに愛さるるなくて嫉妬しふねきレアに寄りゆく

祈るときめつむるひとのなぞへなく淋しきさまを幾たび見つる

春寒の岸に思ほゆヴァージニア・ウルフのほそくながきかんばせ

ウーズ川の暗き流れに身を投げつコートの裡に小石を詰めて

Henri Martin, Jeune fille près d, un bassin (Girl by a fountain)

魂は水の浅きをなづさへりうつし身ゆゑにゆけざるところ

ゆるされず触れえぬ人と知りて恋ふ月はひかりの筋を曳きつつ

逢ふたびにこころをこぼち合ふほかはなくて今年の春を逝かしむ

安田百合絵(やすだ ゆりえ)
1990年生、東京出身。東京大学人文社会系研究科博士課程在籍(専攻は十八世紀フランス文学)。
短歌結社心の花、東京大学本郷短歌会所属。

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