禱るひと 安田百合絵
胸ふかく咲き満ちてゐる春愁をそよがせて午後の樹下を歩めり
いはばしり激つ恋慕にあらざれど春の
もの言はずわれを
くきやかに骨のかたちを見せながら息吸ふときに喉は隆起す
闇充てる
ゆく道に気づかざりしを戻りきて昏れなづむ
情念は
読みゆけば心はつひに愛さるるなくて
祈るとき
春寒の岸に思ほゆヴァージニア・ウルフのほそくながき
ウーズ川の暗き流れに身を投げつコートの裡に小石を詰めて
Henri Martin, Jeune fille près d, un bassin (Girl by a fountain)
魂は水の浅きをなづさへりうつし身ゆゑにゆけざるところ
ゆるされず触れえぬ人と知りて恋ふ月はひかりの筋を曳きつつ
逢ふたびにこころを
安田百合絵(やすだ ゆりえ)
1990年生、東京出身。東京大学人文社会系研究科博士課程在籍(専攻は十八世紀フランス文学)。
短歌結社心の花、東京大学本郷短歌会所属。