短歌 盛田志保子
少し気が楽になるから山奥の水場の如し歌を詠むこと
唯一のなぐさめとして焦点のつねに正しい縦書きの歌
大らかに生きたいという願望を持つわたくしに捺される印
咳に疲れ言葉に疲れやわらかい子供の頬に触れている夜
使っても傷まぬものを使うから続くのだろう歌を詠むこと
吹き荒れるうつつの風を聞きながらコップに凪ぐは歌という水
死にたいといえば軽いと諭されて書き直している三十一文字
「探して」と「見て」が悲鳴のようにくる秋陽の中の戸棚をしめる
音楽にのせてあなたに届けたいそれはわたしの言葉ではない
どのような雨風さえも吹き込まぬための蓋つき三十一文字
盛田志保子
1977年岩手県生まれ。未來短歌会所属。