失くした鰭は   松村由利子

  • 投稿日:2018年08月04日
  • カテゴリー:短歌

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失くした鰭は   松村由利子

入念にだし巻き卵巻きながら 男を泣かせたこと二回ほど
ああ雪が恋しき真昼レジを打つ人の濃き眉われを突き刺す
島抜けの暗き歓び思うなり月に一度の東京出張
絶滅危惧種なること母に言いたれど鰻重届いてしまう帰省日
植物の葉の見分け方調べる夜「腎円形」にふと立ち止まる
友達ではありませんかと問うてくる取り持ち女みたいなSNS
ぎんぎんと太陽沈む西の空町田康的深紅に染まり
わたくしの失くした鰭は珊瑚いろ夕暮れどきの空に落とした
プラスチックだらけの日々がなだれ込み亀の胃壁を目指すかなしみ
深海に死の灰のごと降り続くプラスチックのマイクロ破片
東海道五十三次広重の腕太かりしこと確信す
湖底よりわれを呼ぶ声腕太きものの呼ぶ声 波紋広がる
取税人マタイ登りし木のように悲を抱きとる人となるべし
永遠を産んでしまった女たち水の匂いを滴らせつつ
からだどんどん古びてほつれゆく秋よ水の記憶は淡くなるのみ

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