いいよね、シリウス   遠藤由季

  • 投稿日:2019年01月05日
  • カテゴリー:短歌

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いいよね、シリウス   遠藤由季

一杯の水からはじまる冬の朝青い小鳥の気配はしたり
朝川はおんなが裾をまくりあげわたりゆくもの冬晴れの朝
一番の寒さを今日も更新しつがいのオオバン坂川に増ゆ
国境を生身で越える厳しさを知らざる身にて立つ県境
消防車つるんと光り対岸の防災訓練ほのぼのとあり
あるもので一品作ると似ています近所の散歩で満ち足りること
ああすればよかったと思うことはないけれどさくらのもみじ赤いね
不自由を強いられるのはいつもおんな鮭は卵を産み散らしたり
産んだのち運と自然に任せるという生ならば産んだかわれは
懐かしい人たちはみなフォトのなか会えぬさみしさ薄紙のよう
薄紙を透かして見える冬日差し人の記憶はいずれもやさしき
まっすぐにさびしさを言う人だった冬の陽射しのなかに気づけり
ほんとうのさみしさ詠いしことはなくパン屋の袋溜まりてゆきぬ
捨てられぬパン屋の袋の大小を鞄に入れて橋を渡らむ
颯爽と枝張る銀杏迷うこと多きこのごろ心に沁みる
冬の路地濡らして雨は去りにけり星空はまだ薄雲のかなた
電波塔夏のころより高く見ゆ薄き曇りをあかく灯りぬ
かっきりと八十八星座嵌まりおる夜空の区画整備を眺む
はえ座とか南の空にあることの人の思考は不可思議でよし
考えずなにも成し遂げずに眠る夜があってもいいよねシリウス

遠藤 由季 (えんどう ゆき)
かりん所属。第1回中城ふみ子賞、第11回現代短歌新人賞受賞。
歌集『アシンメトリー』(短歌研究社)、『鳥語の文法』(同)。

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