覚えのない痣    佐藤 理江

  • 投稿日:2020年08月01日
  • カテゴリー:短歌

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覚えのない痣    佐藤 理江

「痣があるの、覚えのない痣、というか血豆」と言って前髪を上げる
明けない夜はなくて止まない雨があり台風は来ず台風一過も
一斉に検温すれば連絡の終わりごろ鳴る三十カ所で
黒板と和式トイレとT箒互い違いの引き戸に鍵を
側溝のふたの穴すら水の底隣の犬の小屋はどうかな
夏休み遅く始まり宿題の暑中見舞いに締め切りせまる
向かい合うカラスとカラス境目に挟むものなく鳴き交わしたり
あなたには横入りして構わない隙間なんだと見えてた隙間
当分はマスクの下に隠された口の動きは気にしないでね
乾電池勢いもなくコロコロと机のへりに届かなかった
顔認証カメラ見つめて瞬きを我慢する目に涙はうかぶ
書き込みはたぶん四人の筆跡がたった一人を追い詰める赤
日本地図青く塗られてその上に山盛りされる雲と雨傘
長雨に濡れたまんまできれいだねゴーヤの蔓は花でおしまい
太陽の光環ばかり輝けば蝕の暗みにロケ隊が来る

佐藤理江
1967年東京生まれ。2003年未来入会。2012年未来賞。2017年『あったこともない人々』
埼玉県歌人会理事

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