揺れる水    ひぐらしひなつ

  • 投稿日:2020年12月05日
  • カテゴリー:短歌

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揺れる水    ひぐらし ひなつ

つつましく爪先に降るひかりあれ 留置場めくどこへ逃げても
忘れもの多きあなたが忘れずにわたしを待っていた帰りみち
時計の下で微笑みかわす逢うたびに人には見えぬ花積もらせて
クローバー 指をからめて笑うとき壊れたままの夏ふりそそぐ
どの駅に行けばいいのかわからない ほかの誰でもないわたしたち
ひんやりと昏き葉裏に迷い込み二度と戻れぬ淵を見つめた
不器用と不慣れが互いにのばしあう指が何度も触れて離れて
手を止めてわたしを見てる明けがたの雪降る音を聞きわけるように
予期しないかたち静かにひろがった言葉の余波をふたり眺める
古い遊具死ぬほど回す雨の日の、あなたが笑う、ずぶ濡れ、生きて、
美しい小石を拾っては抛るそれさえ禁じられて日暮れる
シールド、マスク、その他諸々に隔てられわずかな水を探して歩く
問うように啼き交わす二羽 晩秋の鎮守の森にあなたがいない
雨ににじむ方向指示器唐突にきみに会いたいずっと会いたい
不自然にふるえた樹から鳥が飛び立つようにそこを離れておいで
カーテンを漏れくる灯うつむいて羽化するまでの幾夜を越える
きみはいまゆっくり壁を越えてくる休符のように言葉選んで
花陰に制服だけがたたまれてあなたの痩せた肘に寄り添う
イヤホンも銀杏落葉も分けあって眠ればここはどうやら保護区
揺れる水乱反射して誰からも気に留められぬふたりでいたい

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