スタイル    森下裕隆

  • 投稿日:2022年06月11日
  • カテゴリー:短歌

スタイル    森下裕隆

どの春の煮卵無料券だろう怒りのように折りたたまれて
歯磨きはとても小さな旅だからいつも奥歯で目を閉じるんだ
石舞台古墳の真似をしてるのに寂しそうねと言われてしまう
疑問符で終わる手紙を出しにゆく裸婦像横の郵便ポスト
猥雑な路地のどの窓からだろう上海蟹の歌が聞こえる
くだらない鮫の映画で泣いている友を百年眺めていたい
明け方の高架駅から月を見る(見当たらなさも含めて月だ)
文体を飾り立てたくなるときは菜の花を見てぐっとこらえる
準急にひらく『麻雀放浪記』砂利の味など忘れたけれど
参加費を払い忘れてきたような気がして月を振り向いている

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