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車輪   中家菜津子

919トライアスロン◆詩歌トライアスロン

車輪   中家菜津子

秋には太陽が漂白されてゆくから
生きている輪郭を濃くしようとして
君のこぐ自転車の銀のホイールが
ひかりをばら撒いて通りすぎる

三日ほどつづいた秋雨に
花を広げることができず
濡れそぼった白い朝顔は
半分にたたまれた薄布
雨粒の着弾に飛べなくなった
何万もの蝶の死骸を覆いきれない

自転車から前輪を取りはずし
頭の中で回しはじめると
乱反射しながら高速回転する時計
早送りの世界では
雲の流れで光ったり翳ったりする君の肌
蛹のかたちで眠っていた朝顔の
渦まく蕾はてのひらをひらく速さで咲き
死者の鱗粉をふりまいて受精する
蔓はひゅるひゅる天へのび
獲物のように車輪をからめとって
動きを止めた

すっかり錆びついたホイールを這う
朝顔の蔓は枯れ果てて
種子のつまった実を
あかがね色のリースに飾る
この円環をモチーフに
展開されるアラベスク模様は
町を君ごと飲みこんで増殖してゆく
息をしているものの玉響たまゆら
幾何学の完全さを証明しながら

ほら、もうすぐ六花の結晶が降るよ
背骨に淡くつもるころ
生まれる前に立っていた更地に君の種をまきたい

 *

心音を君の背中にひびかせて二人乗りで逃げ出したこと

追いかけてくるのは金星 あの角を曲がると匂う木犀の花

鈴虫の声の大きくなる方へ走らせる君、抱きあうために

駅前に忘れさられた自転車の錆びつく籠に初雪ひかる

木枯らしに倒されたときあおぞらを望むメガネのようだね、車輪

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