水仙の水のなかへ数多の数のなかへ行為して君と行くこと 中家菜津子

123トライアスロン

水仙の水のなかへ数多の数のなかへ行為して君と行くこと   中家菜津子

生まれた町の南の岬には
もう煙を儚くなった煙突のように
照射灯が建つ
自らを水の中へ
倒してしまいたい顔をしているのに
根を深く張った冬枯れの樹のように
照射灯は建つ
誰かの墓標に憧れながら

その誤字の美しさには正しさのかなわないこと冬の砂浜

墓標へとつづく渚の道に
白い水仙が群がって揺れている
砂地は脆く乾いて
海風は裂くように吹くから
葉は末枯れ
水という水を
咲くことにあつめている苦しげな性を
燃やせばいいのか
見つめている僅かな間に
枯らしつくすためには

つれてって先に逝くのはゆるさない雪と花とが見分けられない

墓碑銘の文字は風化して
砂浜の一粒
名づけられた数多の意味は
ただ砂の数へと還っていく
息を深く吸うと深閑とした肺に
砂まじりの海鳴りが届いて傷つき
うちがわから崩れてゆくからだを
透明な魚の群れが
明るい顔をつくって泳いでいるのに
打ち捨てられたボートには
影だけが乗り抱きあっている

死にたがる君には先に果てることゆるしてあげる蟹の泡ぶく

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