私の好きな詩人 第81回 – 『銀河鉄道の夜』と衆議院解散と(覆された宝石)。西脇順三郎「天気」を読む – 岡島弘子

(覆された宝石)のやうな朝 
何人か戸口にて誰かとさゝやく 
それは神の誕生の日。

宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』を読んでいて、この詩を思い出したので書きとめておくことを思いたった。「六 銀河ステーション」の中の(かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたというふうに、目の前がさあっと明るくなって、)の部分だ。その言葉の輝きかたがあまりにも似ている。ちなみに『銀河鉄道の夜』は1924年に書きはじめられたもの。「天気」が収められた『Ambarvalia』は1933年に刊行されている。西脇順三郎は(覆された宝石)を、キーツ(1795年~1821年)の『エンディミオン』の中の詩句、(……ひとりの若者が/珊瑚の冠のしたに 微笑みながら、/宝石をころがしたように たちまち光輝を発して、/現れた。……)の作品からヒントを得たものだと、自ら認めた文章もあって、他の作者からの引喩はたいした問題ではないと考えているふしがある。それにしてもこの個所の似かたは目をひく。もともと『銀河鉄道の夜』という物語自体が(覆された宝石)のようにまばゆい。ここでは死さえも星として輝く。光りの物語である。しかも(かくして置いた金剛石を、だれかがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に、目の前がさあっと明るくなって、)の部分は、銀河鉄道の銀河ステーション始発の光景であり、ファンタジーの始まりでもある。いっぽう西脇順三郎の「天気」も一日の始まりの朝であるのと重ねて(神の誕生の日)であることはいうまでもない。このまぶしい情景はインスピレーションでもあろう。詩の始まりの閃きにも似ている。言葉が言葉を照らしだし、照らし合い引き出し合う。そうか!と納得する瞬間でもある。私自身の体験でも、それはいきなりおとずれる神秘的な出来事である。それなのにそれを100パーセント活かせる技量がないのがまことに残念なのだが。例えば夢。それは一瞬にしてひろがる総天然色の映像だ。それをいかにして言葉に翻訳し定着させるか。夢をそのままビデオで撮る。そんなことが出来たならいいのだが。私の場合鉛筆を取ろうとして体の向きを変えた時点で、それらの映像はがらがらと崩れはじめ、さらにノートを引き寄せる段階で完全に消え去ってしまう。あとは記憶だけを頼りに書きとめるのだが。そこにはあの完ぺきな映像はもはや無い。

2012年11月16日衆議院が解散した。巷は(覆された宝石)のような混乱に陥った。もっとも覆されたのは宝石などではないにしても、逆襲解散とも呼ばれる抜き打ち解散である。その結果さまざまな政党が乱立し、離党、合併をくりかえしいまや世情はこんとんとしている。覆された政局はどうなるのか。選挙では誰に投票していいか解らない。そんな声が聞こえてくる。12月16日までに覆ったものの中から宝石を見つけ出さなければならない。結果が、(神の誕生の日)となればいいのだけれど。実情は厳しそうだ。

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