空席 浜田 優
(きみはいつからそこにいるの?)
(ああ残念だ 残念だけど
きみは来るのが遅すぎたんだ
きみのお父さんもお母さんも お兄さんも妹も
みんな出かけてしまったよ)
*
室内に向かって
カーテンがふくらむ
窓ぎわに置かれた
一脚の椅子
昼になって
室内が温もってくるにつれ
呼吸しはじめる
空席
カーテンの背後で
急斜面がなだれ落ちる
日々の断層崖
から掘り返されたのは
蠟で型どった四つの顔と
顔はないのに目覚めている
あとひとり足りない
または余分なもうひとり
*
(さあ行こう もうすぐお母さんが帰ってくるよ
お兄さんも妹も それからお父さんも)
(あしたもきみは遅れて来るんだろうな
ただいま も言わないで)
*
だれもいない白昼の室内には
いまも呼吸している空席がある
世界じゅうの各家族の
留守中の居間ならどこにでも!
*
家族愛では浮かばれない
あとひとり足りない
または余分なもうひとり