Mにて 荒川純子
Mに座っているといろいろな人がやってくる
お笑いのネタ見せの若者は
TV関係者と待ち合わせ
ダンス仲間の派手な男女はクラブの話と
ほうれい線
大学生が互いのレベルを語るのは
スマホ片手の通信ゲーム
その中で私
百円のコーヒーと借りてきた本を読む
今度越した家ではなぜか文字を追えなくて
働きだしたら私の時間は私だけのものではない
終わらない予定とくりかえす毎日
私はスケジュールを上書きするだけ
逃げ場所なのM
誰でもないひとりとして座っていられる
ほどほどに賑わうM
麻布十番の商店街は人通りが多くて
Mの前に停めた自転車
数ページだけでも活字を追えれば十分
必要な時間と一杯のコーヒー
うす暗くなった帰り道で
力強くペダルを踏めば
きっと明日も私でいられる予感
塾帰りの小学生はポテトとDS片手に
親の迎えを待ち続け
中国語のレッスン女子はREの発音
「私、毎晩練習してるよ」
百円玉一枚で私はここで生き返る