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第10回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞連載第4回
エチュード(抄)
ユウアイト
何のためのエチュードかじゅりあはついに答えなかった
雨に柔らかく崩れる草原でみられる
錆びた蹄鉄が彫る泥文字の字意、その運勢
突発性のフラジオレット、僕たちは
下手くそなダンスそのものみたいになるの
1 一溢
ふじのはなふさたれおちてゆめの音
あなたのめをかりてさがす
そらもようちいさなへん光
つらなりかさねつらなって抱きあう
たがいのいふくのそめいろもわからぬほどに
つぶれるようにさくはなふさの
ふう景にことばひとつもまいぼつして
うすいさとりのねすがたで
そらがくれてゆくまでと
書きあげたものはつまらないね
とうめいなひつあつつつとはるの露
みみのとどくたあいのないたかさ
ふたしかなところからたれおちている
じゅりあはいつも間違ったように読む
何を? とじゅりあが聞いたとき大抵は雨が降っていて
僕たちはいつも下の句がでない
オルガンだって弾かなきゃいずれ腐敗する
じゅりあは自分でⅡ世と名乗る
2 聴しあう路傍の影に水芭蕉
きょうのうちにはなすことがあり
きょうのうちにあおうと
きのうあったひとにつたえ
きのうあったばかりなのにと
きのうとおなじかおでわらい
きのうわらいあったことのうち
きのうはなかったことだけをていねいにすくいとり
きょうのこととしてわらいあい
きのうあったひとは
きょうのこととしてそれをうけ
きのうのかおよりすこしあかるい
きょうときのうはどちらがとうといというといを
きょうかわすかおにわたしおえ
きょうのうちにわかれる
どうしてそんなに語尾があがるのだろう?
じゅりあは不思議におもう
僕たちは雨雲レーダ―で可視化した戦争を避けながら泣いている
ほら、言葉を疑わない
3 調弦
A「大切なのは音色です」
B「…」
A「リズムでもなくハーモニーでもなく」
B「例えば?」
A「そうですね、例えばピジョン、クルック―、クルック―と鳴くでしょう?」
B「…ええ」
A「みなさん同じに聴こえますでしょ? 実際には彼らがなぜ鳴いているのか?
そのこころは? 私たちには分かりえないものが在る」
B「…」
A「実際にはこころはある、それが音色です。それを読みあげるとき、いかに表現
するのか。先程言ったようにここでラベル化という工程が…」
B「ちょ、ちょっと待ってください。失礼ながら私には、クックルー、クックルー、
と聴こえるのですが…」
A「…講義の邪魔をしないようお願いします。ええっと、そう言語化です。そうで
すね、『松島や鶴に身を借れほととぎす』」
B「…」
A「知らないのですか? バショウを、俳人マツオ・バショウを」
C「横からすみません」
A「はい?」
C「私にはクークーッボ、クークーッボと聴こえます」
B「なんだか世界樹みたいな音ですね」
C「グッポ、グッポ、と鳴くときもある」
B「新しい感覚だわ」
C「ありがとう、渡航歴があります」
A「今はマツオの話をしています! マツオのこころを! その音色を!」
B「それはソラという人物が読んだものでは?」
A「え?」
B、C「…グッポ、グッポォ」
A「ああ、みんなこころを軽んじている。自分を肯定してくれる占い師に、偽りの
歌唱法にばかり目がいって…、それでも私はこれからも聴き届ける」
B、C「…グッポ、グッポォ」
A「…『行き行きて倒れ伏すとも萩の原』」
※『おくのほそみち(全)ビギナーズ・クラシックス角川書店編』
角川ソフィア文庫(二〇〇一年)からの引用があります
僕たちのdrama
形式にたよりすぎているから子午線の少し後ろで
裸の美しさをまだ知らない
じゅりあの鏡面はいつだって雨あがりの多幸感でいっぱいなのに
4 多雨
心音はポリメトリックな水柱すべての蛇口を全開にして
たたっ たたっ たった たった たった ったた ったた っとっ
たたっ たたっ たった たった たった ったた ったた っとっ
たたっ たたっ とった たった たっと ったた ったた っとっ
たたっ たたっ とった たった たっと ったた ったた っとっ
たたっ たたっ たった たった たった ったた ったた っとっ
たたっ たたっ たった たった たった ったた ったた っとっ
たたっ たたっ とった たった たっと ったた ったた っとっ
たたっ たたっ たった たった たった ったた ったた っとっ
たたっ たたっ とった たった たっと ったた ったた っとっ
たたっ たたっ たった たった たった ったた ったた っとっ
※第二連~五連を繰り返し読むこと