
連載第6回
思い出す必要はありません
亜久津 歩
1
致死量の毒を薄めて
隠して飲まされるように
それを隠れて吐くように
静かに生き延びたけものたちが
一度でも と
狂わされた絡繰りを
愚かしく欲しがることを
笑わないで
2
弄り痛みを探してしまう
それは傷痕とも言い難い
わたしのかたちなのだが
はじめからなかったのに
失くしたと信じたいのか
――。
「わかりません」
「思い出したいですか」
「わかりません」
「忘れているなら
思い出す必要はありません」
3
天国かもしれない
いちめんに揺れる菜花の軽やかなこと
知らなくて
憶えていなくて
噓みたい と言った
夢みたい と云った
光しかなくて
満ちるしかなくて