連載第6回 思い出す必要はありません 亜久津 歩

連載第6回
思い出す必要はありません
亜久津 歩


致死量の毒を薄めて
隠して飲まされるように
それを隠れて吐くように
静かに生き延びたけものたちが
一度でも と
狂わされた絡繰りを
愚かしく欲しがることを
笑わないで


弄り痛みを探してしまう
それは傷痕とも言い難い
わたしのかたちなのだが
はじめからなかったのに
失くしたと信じたいのか

 ――。
「わかりません」
「思い出したいですか」
「わかりません」
「忘れているなら
 思い出す必要はありません」

3 
天国かもしれない
いちめんに揺れる菜花の軽やかなこと 
知らなくて
憶えていなくて
噓みたい と言った
夢みたい と云った
光しかなくて
満ちるしかなくて

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