風来 八柳李花
緩々と開く、
あがたれた床擦れに訊ねてゆく
曲がった葉や凍蝶の類いの
くらされた移ろいを
恃む日々の軟らかさに慣れ。
暗がりで蟲づく伝わりの
磨崖に照らされた頬さえも
汚らしい生活の匂いに篭り
うるしやかな時間の登頂に
ふるふると震えている。
君が冴え、見えない
惑いの群盗に立ち。
繰り広げたあわいにひいふうみい、と
募らせた鬱憤に綴じて。
雨立がするように、私をする
刳りだされた轍のまだ
乾ききらない戸口を
常世に晒し、こうして
記されている。
*
君が立ち、私が
見えない。
このほどいの揺ぎを断ち
あやとあやで結ぶ
歪な交接のなかを
かいくぐる賓の渦に掠れ。
遽だつ、仮名のふぐり。
生き、蓋し、捨てられた音韻の
浮きに捲られてゆく雑感、
積もり立ち尽くす生存の糧
冷蔵庫のなかは空っぽで明るい、
目覚めると日曜の夕暮れだった
きのう訪れた友人の
吹き消した煙草のごみくずと
掃き溜めを散らしてゆく春の薄陽の
楽浪の、書き留めの、不在の根拠にまで
余りある存立に眩んでいるの?君と
ことばの数だけ行き違う交差点を
立ち止まり、立ち止まり待つ信号の
青い点滅をかいくぐると明日だった、
満たされた暗号のエンコードの
波打つ渦巻きの数直線の
眠れなかった、ここ最近は明けがたさえ
白々しく狂おしい、演算子を並べる
君の肩を落下する白粉花の
デコードされた葉脈の荒んだ
ことばの鞘につつまれた否認に
余り溢れた私がするように、君の
立つ、私を在らずに。
*
まぶたのままだ、
夜も、こうして過ぎてゆく午後の
栞の薄い影の長短と一緒に
瞑られたままの時間が
野山を転げ落ちながら削れて
燃えている、(悶えている)
苦痛も慣れ親しんだ同化を重ね
書き損じ、読み違えた世界の
表面の混濁に現れる模様の
ああだこうだといったような
球体の浮ぶケロイド皮質の
むくんだ連なりのしとどに
燃え移る送り火の。
まだ、現在だ
こんなにも棄ててきた時間の
延長の瀞も久しく芳しい
生き、忍び、くちごもった
いちまいの痙攣する皮膜を返した
違和を重ねる日々の燻る尖端の
縮れた漂白されたにこげの
光の瀑布の。
いまも燃えている(こんなにも)
瞑られるなかで、ちいさな
時間感覚を喪うという、
標榜に与えられた舌触りを。