疑わない指 江村彩
また明日があると疑わない指が今日の留守電を消去する
呼び交す鳥のきこえる雨あがりタイヤは低く水をはじいて
足あとのマークの上に立つたびにだれかの尻尾踏む心地する
紫陽花の花の真ん中ピンで刺すごと留められて胸がつまるよ
からまった糸のほどけずそのままに待ってみようか梅雨明けるまで
晩のメニューを言い当てながら出張の鞄より出すワインの瓶を
デルフトのタイルの青のあざやかさ十七世紀のトビウオ跳ねて
オランダの光はるけし ベランダに赤い如雨露で水やりながら
大陸の砂の色したストールを干してまぶしき太陽を待つ
遠くより訪ねてきたる友のよう「
作者紹介
- 江村 彩 (えむら・あや)
1966年生まれ。大学生の頃より短歌をはじめる。故春日井建に師事。
現在、井泉短歌会所属(編集委員)。歌集『空を映して』(2004年)。