ヴィオラ 暁方ミセイ
棄てにいった昼を棄て、
わたしばかりをおもたく引き摺り運ぶとき、
ほんとうに透けて軽薄な月が
まだ空にある。
誰かの夕暮れの
静脈のなかだと思いあるいた。
おおきな片割れの目蓋と眸があって、その目は眠って閉じており、昼間の熱気を吐き出し
ながら、淡紅色からしののめを思い出す紫、そうしてやってくる青磁の青が、ただただ後
は、極まっていくのであった。
夕暮れは、
街が似る。薄緑色のコンクリート壁は欠け、ひびの間から鉄骨とツル草が見えていた。あ
れは夜な夜な腕を伸ばして、恐るべき左巻きで、少しずつ人の住むところを崩落させた。
北京のような集合アパートメントの
巨大な洗濯物通り、
惨めな、それでもすべての考え事を、
わたしはひとつも漏らしたくない。
なにか、本当の
生命の底が透かして見えるバスのなかで
黄色い顔をして眠りかけていた。
暗い雲をみると、
それは低く垂れて、人の世界の果てをじっと覆っていた。
夜をもらう。
道路脇に傷口がいくつも裂け、
明りがそこからあやしく吐かれている。
獣が黒い土のうえで生まれる。
作者紹介
- 暁方ミセイ(あけがた・みせい)
1988年生まれ。12歳頃からインターネットで詩を書き始める。2010年、第48回現代詩手帳賞。2011年、第一詩集『ウイルスちゃん』(思潮社)上梓、同作で2012年第17回中原中也賞受賞。