人参のみそ汁と左手の小指と 小池田薫
人参の皮をむいて薄く輪切りに
ずらして並べて千切りにする
合わせるのはえのきと
三丁ひと束の充填豆腐
横にひとつ包丁を入れてさいの目に
椀にカットわかめをひとつまみ
熱々を注ぐ
その日私はいつもの通り人参をきざんでいた
もうあとわずか左手の抑えがきかなくなる
その時
左の小指をざくりと切った
爪で止まった
その午後のことだ
買い換えたばかりの液晶テレビが
鮮明に
沿岸の今を映し出した
翌日は土曜日
北陸では珍しい快晴だった
痛む小指と人参のみそ汁と
テレビを消してしまえばいつもとなにひとつ変わらない日常
わたしは湿気った布団を干した
作者紹介
- 小池田薫
石川県金沢市出身 ’03現代詩手帖賞受賞 同年12月詩集「二十一歳の夏」 詩誌「笛」同人 ’11春より東京都在住