桜を求む 三原由起子
二〇一一年三月十二日浪江町死者一名は大伯母だった
乳ガンを闘い抜きしが地震きて逃るる時に胸打ちて死す
「おばんです」大伯母の声が玄関に響きし家も人影はなし
死ぬときを選べぬならばできるだけ夫のそばを離れたくない
「浜通り元通り」というステッカーを疑え たやすく元通りなど
海沿いの日々の欠片は校庭に学び舎の高さ越えて聳える
さまざまな苦しみの人ら集いしが心裂かれてなお苦しみぬ
満開の桜のときに生まれたというわれ浪江の桜を求む
去年より色濃くなりし桜色の桜の下に去年を想う
二〇一二年四月十三日金曜日午前零時に想いを発す
作者紹介
- 三原由起子(みはら・ゆきこ)
1979年4月13日金曜日生まれ。高校時代から作歌。
福島県文学賞青少年奨励賞、全国高校詩歌コンクール優秀賞。
2001年「セカンド」で短歌研究新人賞候補作、
2011年「ふるさとは赤」で短歌研究新人賞最終選考通過。