



第11回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞
ゆうれいとミルクパズルについてのスケッチ
畳川 鷺々
単色の視界のなかにひとしずく落としてゆけば 花 記憶 、雪
柔らかなミルクパズルが秘めていたゆうれいたちに鍵を与える
乳白色、と言ったばかりに何をそんなにあたたかそうな顔をしている
はみだしてすこし浮いてる欠片でも置かれる色を待っている 熱
*
晩冬のミルククラウン戴きぬ
冴え返る光つどいて昼の霊
/追憶、のピース。真白な、真新しい雑巾に真新鮮な、真飛び降りたての牛乳が含まれて、含ませて異臭、四つん這いになって、こんなにも嫌われる布になってしまうこと、教室に流れる時間の、眩暈のなかで歪んでいくような、そして、わたしは嫌われる係になってしまう。拭いきれなかったミルクは、おそらく黒猫が舐めて、去っていってしまった、あなたは、どこの/ピースから来ましたか。
/花弁をピースのひとつとしてみる、どこからか蝶がやってくる、おそろしい貌をしている、みなさんの言う美醜がいつもわからないままで、その声はいつかのわたしのものかもしれないけれど、どこか力が満ちていて、わずかずつ語彙が揺らいでいて、その声は重なっては、讃美歌となった。
録音にリップノイズの蝉氷
鳥曇り絵筆の先に腐敗臭
精密にいびつな手記にひいてゆくラインマーカー掠れて 潰す
はじめての色を置くまでの逡巡にわたしのための幽体離脱
声帯のない虫たちの断末魔どんな夢でも見れるらしいね
ゆうれいじゃないかもしれない人たちの視線は破線 引き裂いてゆく
*
凍蝶のタイムラプスを幻視せり
花式図のノート破れて寒の雨
///過去の頁が重なって見えている、あらゆるものの交換可能性について考えている。記憶情報に精査が必要です、誰にも公表されなかった蜜の甘さがだらだらとでろでろと、密室、でろでろだなんて、どこから出ろというのでしょうか、入口/出口/おちょぼ口、の、蝶はいつのまにか部屋からいなくなっていました。蜜室。それは、あなたの知らないわたしの巣窟。発掘された夢は、解凍されて、異臭のあまりの豊かさに、閉じられることになる。窓を開けると、いや、開けなくてもそもそも部屋が寒い、ホットミルクに蜂蜜を入れようとして、硬化して地層のようになっている蜂蜜をただ見ていた、曇りガラスの向こうに空があることを掛け値なしに信じていて、氷柱も白くくすんでしまう、冬の夜、またどこかでお会いしましょう。
猛獣の爪のあいだの蜂蜜の気泡のなかの冬の満月
*
日記を読み上げると、それは殴り書きで、ひどく汚い文字で、とても乱暴な言霊が生まれてしまう、それであなた、俳句の箇所だけ文語になっていることについてはどう考えていますか、歳時記とあなたの生きる季節との齟齬のなかで、自分の過去と向き合う、つまりはマリオカートにおけるゴーストと、そうですね、あなたはいつもひとりで遊んでいましたからね。おそらくは、白い、欠片は過去の、どこかのあなたが持っているのでしょうね。乳白色に、観念的な、半透明の。しかし、順番を、記録を競うのではなく、手を取りあって踊ることもできたでしょうか。
幻肢痛 甲羅の色は雪ぞ知る
遡るダイアリーの群れ春の霜
選ばれたゆうれいの声たなびいて違和感は環境音の夕焼け
千年を秘めた日記を蜂蜜に漬けて詩集となる日は遠く
世界ピースフル したたる手触りが薄れてゆけば季節は廻る
/否定するための、修正するための色、カンバス、はじまりの色、ジェッソが乾くまでのあいだ、翻訳された、想像上のゴッホの声に揺らされている。
/追憶のピース、鮮やかな緑と茶色の森のなかに白い水面、悴んだ指でひとかけら、ひとしずくをはらと落としてしまう。拾えずにいたわたしは、今のわたしに恨まれているだろうか、いつまでもわたしは完成しない、優秀な人たちの姿が、描かれるに値する光景が、その白い水面には反射しない、映らない、永遠にオレンジジュースと混ざりあわない、パステルカラーに波立つ、泡立つ。
/追憶のピース、手紙、電車のなかから見えた汚れた雪は、死にかけのパンダのようでした。四つしかないボタンを掛け違えているわたしが、電車の窓に時折映って、あなたは覚えていますか、まだこちらは寒いです。
乳は血 誰かのための命ならどちらの星の神話でしょうか
絶え絶えになってみたいな ない足でもう走れない霊は震える
中空にあおいろの水 諦念はあらゆる帰路を白くひからせ
*
ローソンの袋踊りて春隣り
樹々の先百面体の蒼天よ
*
言霊はいなくなったよ春の淵ここそこあそこどこ、あ、
/底/
*
四月には膨らんでしまう風船の膜と色とを薄くしてゆく
やわらかなゆうれいたちが秘めていたミルクパズルに鍵を与える
最後までひとりたりないかくれんぼミルクのおばけが/ /からみている