日めくり詩歌 自由詩 山田亮太(2011/9/6)

法橋登「縄文遺跡発掘と東日本復興計画」より
 
黒い石と黒い雨

 二〇一一年は放射性元素ラジウムに続いてポロニウムを発見したキュリー夫人のノーベル化学賞受賞一〇〇年を記念する国連化学年である。化学者の吉祥瑞枝さんは「化学と工業」誌に黒い石というタイトルでキュリー夫人を紹介した。黒い石は、日本では北投石として古くから知られ、現在ラジウム鉱泉とよばれている鉱泉の黒いタール沈殿物を指すが、キュリー夫人は化学分析によって黒い石ピッチブレンドからラジウムを分離した。ラジウムの放射線は剥離し易い皮膚表面から数ミリという短い到達距離の電離性をもち、ある種の薬効があると古くから愛好者に信じられていたが、競合的査読者をもつ科学ジャーナルでの薬効の論文化に成功したとは言えない。査読はピーアレビューの和訳であるが、ピーアの原義は貴族で、貴族を査読者に変えたのは、ナポレオン内閣である。数学・物理学者ラプラスを内務大臣にこの内閣は、ガリレオの「宗教からの科学の開放」を「貴族からの科学の開放」に近代化した。フランス革命は第二の科学革命だった。キュリー夫人は、産地の異なる三種の黒い石八トンを粉砕して化学分析を開始したのが一八九八年三月、分別結晶法で放射性元素(ラジウム)〇・一グラムの分離に成功したのが同年四月九日、フランス化学アカデミーに論文を提出したのが四月一二日、ピーアレビューを経てアカデミー論文になったのが一二月二六日、ソルボンヌ大学への博士論文提出が一九〇三年、ノーベル賞受賞が一九一一年である。なお、ナポレオンの遺髪のサンプルは、川崎市にあった科技受託国産実験用原子炉で放射化され、砒素が検出された。

(「ガニメデ」52号所収、2011年8月)


全部で10の断章のうちのひとつから、その前半部分のみ紹介しています。

法橋登さんの書いたものを読んだのは今回が初めてでした。
まずそのタイトルに惹きつけられました。
「縄文遺跡発掘」「東日本復興計画」という二つの語句が併記されていることに意外性というか、どこか異常なものを感じたのでした。
さらに驚くべきことに、全体を読み通しても、なぜ「縄文遺跡発掘」と「東日本復興計画」とが並べられているのかがさっぱりわかりませんでした。

「東日本縄文遺跡発掘」「古代人と現代人のライフサイクル」「自然・生命・バイオエネルギー」「トータルライフサイクルエネルギーと核燃料再処理」「植物工場と畜産団地」「森林の生態遷移と里山」「科学の原点と禁断の木の実」「黒い石と黒い雨」「国際海洋地球研修船」「エネルギー源選択の原点」といった表題に沿って進行する文章は、豊富な科学的語彙と科学史上の事実に関する記述を差し挟みながら、次々に話題を変え、着地点を決して予測させない類いのものです。
個々の文で述べられている事柄は、明瞭でありまた興味深くもあります。
けれども、各々の文の連なり方、全体としての主張へと理解を及ぼそうとするや否や、何か得体の知れない狂気に接触しているような感触を得たのでした。

この文章が優れた詩であるのかどうか—そもそも書き手は詩を書いているつもりはないのかもしれない—はわかりません。

肥大化した妄想の、伝達の方法論なき羅列に過ぎないのかもしれません。
しかしながら事実として、私にとってこの文章を読むことは類例がないくらいスリリングでした。

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