自由詩時評 第5回(有働薫)

詩の現在時、大震災からの   有働薫

地デジ化がまだのテレビをつけると、コモドオオトカゲたちが椅子にすわって携帯マイクを持ち、うごめいている。地球の自然をだめにしてしまうこういった種類の生き物をはびこるらせるのが国策なのか。太平洋戦争の敗戦で根本的な反省をしたはずなのに、また同じことをくりかえしている。怖ろしい。旧日本軍の兵隊軽視は眼に余るものであったと証言されている。中学の社会科の授業で、満州帰りの先生から、お前たちの命より馬の命のほうがはるかに大切なのだと、死ぬほどの制裁を受けた兵隊の話を息を潜めて聞いた記憶が甦る。誰のための戦争なのか。肯定すべき戦争とは、地域の住民が自分たちの生存を護るために、自分たちの中からリーダーを立てて戦うときだけだ。日本の社会はリーダーたちがひとたび指揮権を持つと国民の生殺与奪を独占する。反対意見を制裁し、個人の生命に介入する。東北大震災の現地報告で、何もかもが「流された」と表現する人が多く、聞いているうちに、かつて新婚時代に経験した流産のことを思い出した。だいじょうぶ、流れたあとはみちがつく、母が電話口で言ったことも。「流れた」という言葉。たとえば日本列島を一人の健康な女性だと思えば、いまは新世代を生むための健康が衰えているため、流産を起したようにも感じられる。

穏やかで豊かだったいわきの海が、荒れた。2010年10月14日思潮社刊の齋藤貢『竜宮岬』は暖流寒流が沖で出あう潮目の海に幻想を求める協奏曲のような詩集。フィンランディアや、モルダウなどの名曲を想起させる。人間を人間らしく生かしてくれる風土への感謝のニュアンスに満ちた音楽的詩集である。いま、齋藤さんは復興のため、自分の高校の生徒たちを護るべく奮闘している。この詩集の精神を以って若い世代により添ってくださいと、応援したい現役世代のリーダーである。

震災直後に北海道札幌からとどいた3月15日を刊行日とする思潮社刊岩木誠一郎詩集『流れる雲の速さで』は軽快な抒情詩。晴朗な北の空気が心を洗ってくれる一冊。震災にも変わらない自然があるという希望の光。

原発を導入したのは間違いだったという意見が弱い。フランスがいっぺんで嫌いになりました、というある落語家の発言に共感をもつ。わたくしは長年フランス詩を読んできたが。地震国に危険極まりない装置を売りつけ、こんどは法外な汚染水の処理料を押し付けてくるフランス商人たち。外国の食い物になるな、坂本竜馬の危機感に戻れと、かくいう私も、明るいお人よし、と友人に評されて傷ついた経験がある。当たっていると感じるからよけいつらい。わたしは自分を日本的体質だと思っている。温暖な自然に生えたお人よしの1株のスミレ。ところが人間は野獣である。歴史を見れば分かる。殺戮、略奪は当たり前、切迫すれば共食いもする。自分は自分で護らなければならない。抑圧と搾取、侵略と独占を許してはならない。私自身は両親が九州の出身で、南方系だが、北の晴朗な自然と人々に強い憧れを持っている。かつて梨ノオトというグループでいわきの「日々の新聞」に2年間ほど詩を掲載していただき、その中の数篇を昨年出版して花椿賞をいただいた詩集『幻影の足』に含めて、うちの幾篇かを幾人かの読者から一番よかったと言われた。いわきの人々は私の詩作上の恩人なのである。「日々の新聞」も文化方面の記事から、復興へのさまざまな問題点の取材等に内容が変わりつつある。応援したい。

商業的な貪欲さと利己主義にうんざりさせられるが、そのフランスの、詩人シュペルヴィエルは怖ろしい未来を予感する。

 やがて地球は
 夜昼の区別もなしに廻る
盲いた空間にすぎなくなるだろう。
アンデス山脈の巨大な空の下には、
山も見えず、
小さな窪地一つなくなるだろう   (中村真一郎訳)

わたしたち人類の生命の基礎である地球がやがてどんな状態になるのか、「予言」と題する詩の第1連です。全篇は灰皿町の有働のブログで読んでください。

最近の雑誌では、4月25日刊の「左庭」19号で読んだ伊藤悠子の2篇が印象に残った。この人の詩は、最終連が謎めいている。その謎が、そこまでの詩行を改めて読み直させる。すくっと立ち上がる詩が見えると、ドキッとする。「神話」の最終行《わたしはいなかったのよ/あまたのおもかげをやどしてもらっただけ》もそんな詩行だ。

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One Response to “自由詩時評 第5回(有働薫)”


  1. 5月27日号 後記 | 詩客 SHIKAKU
    on 5月 27th, 2011
    @

    […]  今号の自由詩時評に取り上げられている福島の詩人、齋藤貢氏は、14日開かれた日本詩人クラブ茨城大会で、詩集「竜宮岬」所収の作品を朗読した。竜宮岬は福島県いわき市に実在 […]

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