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戦後俳句を読む (23 – 2) ―「獣」を読む― 上田五千石の句 / しなだしん

シリウスの青眼ひたと薬喰   五千石

第二句集『森林』所収。昭和五十年作。

自註には〈十枚山麓の宿は猪や鹿を喰わせる。炉端で鍋を囲んでの熱燗、身内の野性がよみがえる〉とある。

この句には今回のテーマの「獣」が表出しているわけではないが、「薬喰」から十分に獣が感じられるだろう。ましてや掲出句は「シリウス」が見える、山深い宿の一夜である。自註にある通り、炉端での薬喰は、まさに野性味がある。

自註にある、十枚山とは山梨県南巨摩郡南部町と静岡県静岡市葵区にまたがる山で、標高は1719m。

同じ十枚山での作と思われるのが〈昼ともる寒の裸燈に村老くる〉〈冬菜二三行抹消の詩句に似て〉〈山小屋の骨正月を湯気ごもり〉で、三句目の「山小屋の」句について自註に〈骨正月とは二十日正月。正月料理の残りを骨にして平らげる火〉と記している。

続いて、同時かどうか微妙だが〈冬を力耕霊山のほとりにて〉があり、自註では〈霊山は七面山〉と記している。十枚山からは七面山が望めると聞く。

さらに続いて〈長氷柱杖とし突かば聖だつ〉があり、以前取り上げた〈剥落の氷衣の中に瀧自身〉につながってゆく。

これらは第十回「夏の句」でも触れたが、五千石がスランプに陥り、盛んに山歩きをしていた時期である。

この一連の山の句は、句集『森林』の収録順から、昭和五十年の一月の制作と思われる。場所や標高から言って雪が降ることはないと思うが、冬山には危険が潜んでいるような気がする。だが、それだけに一人を感じ、自身に向き合える時間なのかもしれない。

さて、青眼とは、訪れた人を歓迎する気持ちを表す目つき。シリウスを眼に見立てて、自分を歓迎してくれていると、五千石は感じたのかもしれない。

ちなみに「青眼の構え」というのがある。「青眼の構え」とは剣術の基本的な構えのひとつ。流派によって微妙に違うようだが、中段の構えの一種のようで、一般に中段の構えは、切っ先を相手の喉もとのあたりに向ける構えのことだが、これをやや斜め上に少し上げて、相手の眉間から左目のあたりに切っ先を向けるのが、青眼の構えらしい。

掲出句の「ひた」という言葉からそんな武道の構えのことを考えたりもした。

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