泥の家 石田 瑞穂

石田詩131018-1
石田詩131018-2
石田詩131018-3 

泥の家 石田 瑞穂              

言葉 物質 地理—すべてのものの間には 
宇宙の中間的形態がある
土のベッドで目覚めるのが こんなに
気持ちのいいものだとは知らなかったよ
村のニワトリと野犬たちが奏でる
鬨の声のパーティーと
フィロラ フィロラ フィロフォ フィフィ
窓の外で鳴く 透明で複雑な幾何学形をした花の
花弁が 空中でいちまい いちまい
咲き開いていくような澄んだ歌声に包まれて
ぼくは昨晩のウイスキーの靄を振り払い
夜明けとともに起きだすことができた
粉っぽくて濃いタイ珈琲を自分で淹れ
泥を堅めてつくったデスクにかがみ
詩を書く―最近は酒のせいか
夢さえ見なくなっていたけれど
今朝 再び 夢を見るために早起きができた
赤土の粘土 松 バナナの葉 
藁 茅 膠 漆 岩 石
ピン川の水 それに風と雨だけでできた
家の内部には 一匹の地蜂が土壁に
巣を掘って棲み ブウン ブウン 
さかんに羽音でけしかけて
ぼくらをここから追いだそうとする
宇宙は反転し ぼくらは巨大な
多孔質の地蜂の家のなかで
息を殺し ひっそり 密やかに暮らし
やがて蜂語で囁きあうようになる
甘い蜜でべたべたした耳へと
口器をくっつけるように近づけて
世界は堅く乾いた泥の泡となって夢の水辺に
沈んでゆく―バシン! バシン!
ガラスの嵌まっていない窓の外で
HIV患者の子どもたちが
南国ストリッパー風サンタクロースの靴下
みたく木にぶらさがった
肉襞色のつやつやしたバナナの花を
竹箒ではたいて 元気に遊でいる
みんな みんな ゴールデントライアングルの
麻薬禍 日本サラリーマン戦士の買春
貧困 兵役あけの夜のオリエンタリズムツアー
ヤーバー錠や なんやかやの落し児たち
音も 声も 記憶も
見えないものだから それらはどこから
飛んでくるのかわからない
死角 とぼくは思う
頭蓋骨の空洞 肉体 そして存在そのものの
どこかには失われた地底世界のような
場所があって それが
ぼくの生を微妙に狂わせているのだ
だから また聴こえてくる 
それは音というより分厚い沈黙が
闇のなかで立てる軋み
ッツクルルルーシャーッツタッタッタキシュイー
耳の奥に最初の兆候が現れ
記憶が予感を引き裂き 新月の剃刀が浮かんで
疑問の根が暗い地中を這う 朝に一度だけ
ネジマキドリが世界の螺子を巻くみたいに
この世でぼくひとりが歳をとり
右手で白いソフトボールのような
死をふくらませていく 
 
トン トトン トトト トン
リザードが張りついた茅屋根の向こうから
モールス信号にも似た孤独な通信が降ってきて
あれはアジアヒメキツツキが
お嫁さんを探している音だよ と
いつだったか 子どもたちが教えてくれた 
 
それとも
 
降りはじめた 雨の音だろうか
 
それとも
 
 
              

              (連作詩『耳の笹舟』より)

  

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