追憶の国 ひとりの夜に──  倉田比羽子

倉田詩131220-1
倉田詩131220-2

追憶の国 ひとりの夜に──  倉田比羽子

時がたち 小高い丘の上の墓地で骨の人はこころを粉々に砕いた
一片一片、無数のこころのしこりを刃にして
魂を振りあげながら墓の下から転がりでてくる
無言の「強要」に謎めいた叫びをあげる異形の野犬や梟や黒カラスを引きつれる
贖われることのないままに阿鼻叫喚の墓標がつぎつぎ新しく取り替えられるまえに
光なき星の声に導かれるように満月に骨身を透かし 吐息は人類不在の風に乗り
地上的な口吻をおし殺した声、声が黒い蝶のように乱舞している 
全生涯を張りわたした蘆原にうめき声の歌がきこえる
 
 
 
「花一つ、花一つさえ、
この身をおさめた棺にそなえるな。
友一人、友一人さえ、
悲しみの野辺の送りに従うな。
人知れぬ山奥の地に、この身を
埋めておくれ、
墓を見てまことの愛に泣くものを
避けるために。」───*
 
 
 
歌う声は丘の上をとり囲みひとつの流れとなって火垂れ飛ぶ
わたしを正しい名で呼んでくれるな!と哀願している
死は、すでに生まれながらに肉体の一部であったものだ 
ならば満たされることのない空虚によってかちとられた充溢のために
甘い香りの花粉のそばで愛が襲いかかるまえに口中の闇を大きくひらいて
「絶句」する愛に泣くものたちを遠くへ追いやるのだ
 
 
 
   死の息で黙過せよ 死を生きよ
   花咲く木陰でかげろうが洪水の予兆を告げた日から
   三千年先に思いをめぐらし 姿なきわが身で歩めよ
 
 
 
石積みの丘は海に向かってひかっている 石も岩も苔も木も命にみちたひとつの場処である
一葉にひかりが差して海緑色に染まればすべてを無でみたすかのように息を吹きかえし
この地につめ込まれた死んだものたちの声(ライディン、ライディン) は至福にかえる驚くべき力がある
声、その声は人間が滅びた後で別の意思をもちはじめるのだ
それが延々とつづく根拠のない生命への郷愁である
だからこの地が揺るぎない故郷の名として名乗りをあげるまで
わたしたちは花一つさえ捧げぬ──
わたしたちに唯一の使命があるとすれば
この地で「代弁」できることがあるとすればうめき声の歌に同意することだ
朽ちた黒土のうえでわたしたちは何かをすることはない
ただわたしたちは虫になったり 蝶になったり 渦巻く蟻や蜥蜴になったりして
追憶の国をさまよい みんな輪になって骨の人たちと遊んだ
そうして灰骨からまた鼠や鼬や赤ん坊や水の木が生まれてくる
 
 
*シェイクスピア『十二夜』(小田島雄志訳)
 
(poesieという思考(生態)が開くもの─郷愁)

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