キノコ狩り   井谷泰彦

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キノコ狩り   井谷泰彦

カエルの腰掛け
妖精の輪
「キノコソースをつけたら、長靴でも美味しく食べられる」(注1)
ヤマドリタケ チチタケ バターキノコ
菌輪は妖精界への入り口であり
過去・未来へ自由に行き来できる扉である

森では僕らはいつでも〈客人〉であった
「シャツの襟を正して、自分の心を森に打ち明けるなら
森は褒美として沢山のキノコを取れるように計らってくれる」
 子どものとき、祖母から聞いたささやき
森では蛇もキノコも妖しく光っていた
電車通りまで戻ると、漢方薬局のショーウインドで黒焼きにされた青大将が口を開けてとぐろを巻いていた

抑圧された環境下に置かれていたため
机の脚にも興奮したヴィクトリア朝の貴婦人たち
キノコ狩りは「静かな狩猟」と呼ばれていた
「キノコ狩りには、未知な部分や意外性がある。運・不運もある。人はだんだん夢中にさせられる」(注2)
キノコの突発的発生
キノコの勃起的成長
キノコの両性具有性
キノコの腐食と崩壊・死

「猫にいつまでもカーニバルがやってくるとは限らない
 太斎もまたやってくる」
 昔のロシアでは復活祭前の四九日間は物忌みの期間で
「料理が七つ、全部キノコ」
 地方によってはキノコは主食に近かった
 アンズタケ 松露 サワモダシ クロシメジ
 毒のある個体を選り分けながら
 森で僕らは〈マレビト〉になりそこなってきた

糸偏業界の旦那衆に招かれて
祖母と一緒にマツタケ狩りに出かけたことがあった
森のなかでコンロに火を入れて
マツタケがたっぷり入ったすき焼きを作って食べた
歌舞がはじまり
足早にやってきた闇のなかで
大人たちは笑い声をあげ続けてのたうちまわった
とり憑かれたようにのたうちまわった
夜が明けるまでのたうちまわった

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