Friday, April 1, 2016 モーリス・ラヴェル   野村龍

0813Friday, April 1, 2016

モーリス・ラヴェル   野村 龍

バルトークに夢中になる前は、ドビュッシー=ラヴェル一辺倒だった。五十路がすぐそこ
に見える今、ブルックナーの交響曲全集を、片手では数えられないくらい持つに至って振
り返った私は、ドビュッシー全集ではなく、ラヴェル全集を最初に買い求めた。様々な旋
律が零から止め処なく湧き出して来たドビュッシーに比べ、無限のメロディには恵まれな
かったラヴェル、ロマン・ロランをして「スイスの時計職人」と言わしめたラヴェルを、
私は選び取ったのである。

豊かな貧しさの中にあったラヴェルは、ずっと独身だった。お呼ばれした時も、そのお宅
の子供とばかり話をしていた。マ・メール・ロワを、ラヴェルはどのような気持ちで作曲
したのか、知る由もないけれど、「妖精の庭」を聴いていると、スコアを少しずつ書き進め
ながらピアノを探り打つ、背中が目の前に浮かび上がって来る。諸井誠ではないが、この
ような作曲は、ラヴェルの独壇場なのである。

ラヴェル全集は、ピアノ曲から始まる。ラヴェルはピアノの作曲家、と言う訳である。私
がパソコンに向かって詩作するように、ラヴェルはピアノに向かう。その背後に、どれほ
どの寂しさが、折り畳まれていることだろう。しかし、マ・メール・ロワには、喜びが満
ちている。何にも代えがたい喜び。嘗て、詩を書きながら、私も感じた喜び。

作曲が終わって、ラヴェルはピアノの蓋を静かに閉める。光が、ピアノに閉じ込められる。

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