シビレエイと飛翔の話   駒ヶ嶺朋乎

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シビレエイと飛翔の話   駒ヶ嶺朋乎

いつも帽子をかぶっていた。
その人に話すとなんでも尾ひれがついた。
ああ、その夕暮れね。
夏の雨のあと、
よれよれの麦わら帽子。
忘れてきた長い黒髪。
忘れてきてしまった。
それが。
指を弾く合図とともに
ほら、透き通っていく、
ね、
束ねた長い髪、
それがとたんに鮮やかに泳ぎだす黒出目金の
透明な四ツ尾になって、
私たちの疑念を振り切り、
鮮やかな憧れを描き出す。

またある時はね、
閉じた手のひらを、
返し、
開いて灯す、一尾のアカヒレ、
それが極彩色のグッピーに。
そのまま両手をこう向き合わせてかざしてみせて、
ゆーっくり腕を広げると、
グッピーが引き伸ばされて、
アロワナに。
アロワナの吻側を左手に引き寄せたまま、
右手をグリッサンドの要領で、
鱗をなでるように奏でると、
虹色になる。
その虹色の鱗から、
虹色の音階もついでに出る。
なでられたアロワナが気持ち良さそうに
左右に体を揺らし。
そして。
九頭竜川っていう名前は、
いかにも恐竜の化石の産地にふさわしい。
と言って
空想の九頭竜川に
大きなアロワナをあろうことか
放流する。
一度水から上がった恐竜たちの
夢のあとだと言って
かき集めた幾多の化石骨格をもまた
帽子の人が鮮やかに組み上げてみせ、
美しい生き物の姿をしている川だね。
それが、
こんな話。
飛翔のために空洞を備えた頭骨を九つ、
それからほ乳類の柔らかい皮膚を貫くことができる
鋭い歯牙を備えた下顎骨を九つ、
そして飛翔のための
大きな胸骨を九つ、
集めてそして一つの胸郭を肋骨で組み立て、
先細る尾椎までを備えた一対の脊柱が、
バキバキと音をたてて。
組み上がる。
シビレルね、
ああ、これはシビレエイ級のね、
帽子の人の荒技もここまで技巧が凝っているとね。
これはもう物語だね。

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