残像 雲嶋聆
あきかぜに秋桜ゆれて思ひ出は真夏の雨のにほひを醸しぬ
ふりそそぐ夏の光を吸ひこんで草生は雨後の雨に耀ふ
一面にひろごる緑のまぶしくてふつと目をとづ 八月の景
豊川のほとりにひとりすつと立つ月桂樹 なつを照りかへしつつ
真夏日のうたたねの夢は昼下がりの空のあはひに舫ふごとしも
じつとりと光は草のもとふかく沈むごとしも 残暑に喘ぐ
街路樹にはりつく蝉 の翅 ガラス細工のごとき光のなかで
ギヤマンの空にましろく浮かびをる日輪を指し虫は飛びたつ
黄昏の光せつなき夏の空おもひでは風に消えゆかむとす
こもれびの幽かにゆれてぼんやりと白く佇むかげなつかしや
あの夏のむかふに君は消えにけり線香花火の余韻をのこして
作者紹介
- 雲嶋聆(くもしま れい)
1989年滋賀県生まれ、愛知県在住。
2012年より中部短歌会に所属。