第8回詩歌トライアスロン融合部門受賞連載第5回
晩夏奏 豊田 隼人
髪を染めようと思うんだけど、何色がいいと思う? と僕は訊く
そんなことは染めてから言ってと彼女が言う
お香を焚くためにガスコンロに火をつける(ライターやチャッカマンを使えばいいのに)
匂いの効力は万人が知っているでしょ
蚊の音&水玉のシャツ、勝鬨をあげながらなお香る嬌声
エアコンの効いている寺
街は綺麗な水の音を流す
このまちは町だよ
色が薄い家々
死んだように佇んでいる
橋の上の小さな生き物
蝉が飛んだ
音が街の方に消えていく
涼しさや彼らの敗北
は空蝉に
8月も終わりになって
髪を染めた
赤と言うのに恐怖を抱いて茶色と言った
6800円(カット込)
受験生(自由な校風です)
気分転換(自分の容姿って見る頻度高いし)
嗚呼、美に彷徨いたい (〝イケメン〟の苦労は絶望だから背負いたくない)
美顔器をあてても触らないでほしい。味噌を塗られてつややかな肌
YouTuberのラジオ(ラジオ局とか通してなくてもラジオ? 広辞苑は「一方向性の無線通信方式」って言ってるから、セーフ)
を聞く
聞くというより
眠る
明かりを消して
エアコンを消して(節電です)
内部クリーン運転の音が
笑い声に重なる
内部クリーン運転はエアコン内の水分を飛ばす
だから出てくるのは熱風で(ほんとに夏のエアコン? 絶対に季語になんてさせない)
部屋は夏を半日ぶりに覚える
そして
明日の朝には忘れている
「祭りよ!」エアコンは送風運転
数百メートルは先の
踏切の音が聞こえる
多分、誰かが轢かれてしまうのが
階段を上りながら想像された