春著きて孔雀の如きお辞儀かな 上野泰
虚子に「新感覚派」と評された上野泰の作品のひとつ。
新年になってお節料理を食べたり、互いの近況を話し合ったりと親戚一同がわいわいがやがやしている光景を思い浮かべた。
そんな中、藍や黄緑といった春の訪れを感じさせる着物に身をつつんだ少女に「あけましておめでとうございます」と言われたのであろう。親から挨拶して来なさいと言われたのかもしれないし、お年玉をもらいに来たのかもしれない。いずれにしても作者はその挨拶にぎこちなさを感じたように伺える。なぜだろう。
その理由は二つの面があるように思える。一つは着慣れていない着物に身を飾ったため挨拶をうまくできなかったという身体的な面。二つは作者とは滅多に顔を合わせる機会がなかったため少し距離のある関係だという心理的な面。
そのような一連の動作を飾り羽ひろげ、どこか作り物っぽい印象を抱かせる孔雀に見立てる対象の把握が「新感覚」なのかもしれない。
他にも「風車色を飛ばして廻り初め」や「表面に水底があり水澄める」「飛んでをるとんぼうがすきとをりけり」といった作品が同句集に収められている。
『佐介』(昭和二十五年)より。