La petite mort 中家菜津子

詩歌トライアスロン620
【詩歌トライアスロン】

La petite mort   中家菜津子

君から
死にたいというメッセージが
ひかりながら届き
あ(かるさ)だけになって
優しく君を死なせたかった

製氷皿に青く輝いているのは昴
一億年をただ燃え尽きるために
存在している星々を数個
コップに入れると
透きとおったものに
すきとおったものが
跳ね返るときの音が響いて
(((フェルマータ))))
四隅の壁が意識の外へ遠ざかる

膨張してゆくユニヴェール
だから(すき)まに
アルプスの炭酸水を注ぐと
激しく発泡して
誰かの時間を早送りにしながら
447000,811000,198silent,704000,120000,753000
溶けていった

これでもう虫籠の蛍はひからない
雌雄の区別なくゼンメツさせたんだ
最初から空っぽだったから

生まれたての闇の密度に君は安心していいよ
息を深く吸うとき肺は奈落に落ちてゆくけど
鉱水を啜って満たしたからだが発光するから

うちがわからさ、溺れてしまおう

*
天の川銀河に沿って君とゆき帰りにひとつ鉱水を買う

はつなつの炭酸水をあけるとき封じられてた吹雪の匂い

製造年月日がきみの誕生日だからさ、ばらの花をいけよう

蒼穹にあなたは果ててLa petite mort小さな死 紋白蝶がかかとにとまる

君は目をあわせてくれない窓際のクリアファイルをすべる雨粒

       ”La petite mort”, French for “the little death”, is a metaphor for orgasm.

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