十二月 中家菜津子

中家詩

十二月 中家菜津子

hana
遥か遠くから帰ってきたのに
マフラーを外すとき
あなたから
この町の冬の匂いがした
公園のきりんの影は長くのび足(あ)裏(うら)に角がふれる夕暮れ

me
古いビデオの中の夕光が
窓から差し込んだ夕日に
混じりあうのに見惚れて
五分後、君は巻戻す 

黄色い帆、乾いた音をたてながら風が止むとき銀杏にもどる

mimi
電線を鳴らす風雨の音を聴くと
カセットテープで早送りした時の
君の声のような気がして
とてもゆっくり歩いてしまう

雨は声とあなたは言った天からの手紙のように波紋を見つめて

yubi
紙の質感を指が覚えるまで
何度も同じ本を読んだ
乾いた空気に唇が裂けて
ぽたりと紅い花が咲いた

くちびるをあわせるように淡水の魚とモネの本を重ねた

shita
苺が買えるだけの
硬貨を一枚舌にのせたら
君と反対の、でも似てる味がした
それで翌日切符を買った

風邪ひきの君がくちびるとがらせてミルクを吹く夜、初雪が降る

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