Cycle   中家菜津子

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◆詩歌トライアスロン

Cycle   中家菜津子

 硝子壜の栓を抜くと、噴水。君の手首に滴る炭酸はぱちぱちと弾けて、水と風を行き来
している。喉に細いひかりを感じながら半分まで飲み干したら、銀色の蓋を握ぎってごら
ん。てのひらに荊のように食い込むひんやりした金属に、生きている熱を移すんだ。有機
と無機の温度を交感するとき、王冠を持つ者は、自らが自らの王だと気づくだろう。絶望
と希望の循環の流れのどこにいたとしても、君の眼に映るものは純化された風景だ。

  サイダーの王冠栓を手にのせる きみとわたしのこれは銀貨だ

 「銀行の奥で無限に増殖する万能と書かれた紙幣、おまえたちは減却されず朽ちること
ができないのだから枯葉に劣る。たくさんの数字を侍らせてオンラインを駆け、飛行機に
化けることで街や人を燃やすおまえを、空気をたっぷり含むように優しくてのひらでまる
めてあげるから、自らぱちぱちと燃えるがいい。灰になったら土に蒔いてあげるよ。ミツ
マタの木の根元にさ。養分として吸われ前世に還れるようにね」

  光合成 木の葉がひかりをあびるときいちばんちいさな風がうまれる 
 

 嬉々として君は振る舞うから、新しい銀貨を探しに行く。波打ち際に自然にできた貝殻
タイルの道で漂流物を集めよう。女の亡骸に似た流木、先の尖ったシーグラス、眼鏡の化
石。女王を失った羽蟻の群れが海へと一直線に身を投げるのを見つめた。乾涸びた蟹の死
骸の鋏は失われている。その横で君が花模様のスカシカシパンを拾い上げ耳元で振ると、
微かに砂の粒が鳴った。希望として差し出された、きみとわたしのそれは銀貨だ。

  海風がページをめくる 声にして物語から詩を抜きだして

   ニシガワの外から来たのだろう
   アラビア文字の書かれた
   駱駝のスノードームが
   波の寄せるたびに転がる
   ホログラムの雪は青みを帯びて
   駱駝のいる世界へと降り続け
   満ち潮の間、止むことはない
   海は空を歌っている

  frame tale海から昇る月の海 きみとわたしのこれが金貨だ 

     ミツマタ 日本の紙片の原料になる植物
         *frame tale 枠物語

          初出『季刊びーぐる 第29号―詩の海へ』(一部改稿)

中家菜津子 著作 歌集「うずく、まる」(第一回詩歌トライアスロン最優秀作品収録)
未来短歌会 ニューアトランティスオペラ欄所属
季刊「びーぐるー詩の海へ」2016年春より作品連載
同人「喜和堂」「CMYK」「釣」Twtter @NakaieNatsuko

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