二十一番 作者名入りの句
左勝
右
しろく て ぷよぷよ えだのゆきを も たかやまれおな も 高山れおな
自分の名前を俳句に詠みこむ俳人と詠み込まない俳人がいる。それどころか、世の中には俳句に固有名詞を使うことすら忌避する俳人もいるわけで、そういう人から見ると下記のような作例などは狂気の沙汰か。
発句なり芭蕉桃青宿の春 芭蕉
痩蛙まけるな一茶是に有 一茶
天の川のもとに天智天皇と虚子と 高浜虚子
初空や大悪人虚子の頭上に 同
虚子一人銀河と共に西へ行く 同
日野草城かくれもあらず湯の澄に 日野草城
げぢげぢよ誓子嫌ひを匐ひまはれ 山口誓子
父がつけしわが名立子や月を仰ぐ 星野立子
夏石番矢の
これらの作者の顔ぶれ、傾向性があるようでもあり、ないようでもあり。
さて、掲出二句であるが、左句の作者は怪奇小説家にして怪奇俳人。パーティーなどの社交の場には、猫のぬいぐるみを肩に乗せて現われたりする。別に凶暴そうな容姿ではないものの、やはり妖しの物語作者であるからそれなりの雰囲気を身に纏う。それでこんな句も似合うわけである。右は拙句で、「俳句空間―豈」五十二号で発表する「原発前衛歌」二十一句から。この句を見ると作者は自分が「しろく て ぷよぷよ」であることに居直っているかのようだが、さにあらず。最近、深く反省してダイエットを始めたらしい。そこで、倉阪の痩身に敬意を表し、左勝ち。
季語 左右とも無季
作者紹介
- 倉阪鬼一郎(くらかさ・きいちろう)
一九六〇年生まれ。「豈」同人。掲句は、第二句集『悪魔の句集』(一九九八年 邑書林)より。
- 高山れおな(たかやま・れおな)
一九六八年生まれ。「豈」同人。