申楽(さるがく)を泉の底で習ひけり
せぬ花の翁の前を蜘蛛の糸
夕螢鉄(かな)輪(わ)づたひを歩きをり
空蝉のどこからも空流れ入る
一歩づつ土になりゆく踊かな
骨骸の面に巣くふ夜鷹かな
濡れてゐず泉の底で死ぬ鳥は
姿見ごと運ばれてゆく晩夏かな
小面の裏の唇うごきけり
落ちてゐてはならぬ小鳥やシテ柱
直面(ひためん)の木の実一個として存す
橡の実の記憶を振つてをりにけり
おもしろうなつてはならぬ茄子かな
執筆者紹介
- 男波弘志(おなみ・ひろし)
昭和41年(1966) 真冬 出生
北澤瑞史 創刊 俳誌「季」 元会員
岡井省二 創刊 俳誌「槐」 元同人
永田耕衣 創刊 俳誌「琴座」マンの会 元会員
現在 俳誌「里」 同人
既刊句集 『阿字』(田工房)
合同句集 『超新撰21』(邑書林)に入集