糖杏菓(マカロン) 尾崎 まゆみ 

糖杏菓(マカロン)

尾崎 まゆみ

わたくしといふ現象がコレクションしてきた秋を貼れば青空

さざなみの鰯雲浮くうすい白踏みぬく青い秋のながれを

すれちがふミトコンドリアイヴを持つひとの項のなめらかな皮膚

胸骨のあたりに揺れるブラウスを摘めばすこしととのふ気配

鯉川筋をあるく少女のまなざしのさきに再度山(ふたたびさん)の紅葉

羊雲ひるのひかりにつつまれてはなびらのふりしきるあかるさ

前開き後ろ開きのエレベーター開くたび人の流れが揺れて

存在がすこしたりない高層のビルの窓辺に手を洗ふとき

いちめんの空のかたすみ蜘蛛の糸きらきらひかる日常のこと

唇のぷつくり赤い 薄紅(マシュ)()()糖杏菓(マカロン)よりも少女のやうな

ドトールの喫煙席の磨硝子へだてても銀河系はよごれる

手をあらふみづの被膜をまとひつつ皮膚いちまいのなかのわたくし

暗闇を感じてゐたい右の手がしてきたことを考えながら

夜のニュースに確かめてゐるこの日日はまだ壊れない明日の朝まで

『ゴダールの悪夢』番外編

尾崎まゆみ  玲瓏 神戸新聞文芸短歌選者、伊丹歌壇選者

映画と美術館巡りと珈琲などが好きです。歌書『レダの靴を履いて塚本邦雄の歌と歩く』

八月に第七歌集『ゴダールの悪夢』を上梓しました。

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