能古島 堺谷真人
師走のころ、檀太郎のぬしを筑紫の能古島におとなふ。
手づから厨ごとしたまひて、あるじまうけいとまめやかなり。
海見ゆる瑞茎の丘をひらきて、葱、菜のたぐひあまたつくりたまふ。
畝のかたへにさりげなく先考の歌碑などあるもをかし。
冬凪へ火熨斗かけたる渡船かな
黒犬をわが影となし冬帽子
島ぬちに酒屋三軒十二月
花枇杷や駐在の妻帰省中
三寒四温金印の島まなかひに
蒙古塚見のがして来し波の花
猪垣の穴より離農とどまらず
枯芝や遠く鋏をつかふ音
海望む句碑絶筆のもがり笛
無頼派の位牌収まる書架の冬
荒れ山は蜜柑小さし盗つて食ふ
冬菜摘むふたりの昼餉足らふほど
よき蕪あれば鍋振る男かな
むもれ木の卓茎漬をひとつまみ
ストーヴも犬も漆黒よく光る
一棚はすべてスパイス寒卵
冬ぬくし蟷螂飼はれゐて肥満
山陽の筆意水仙横薙ぎに
不揃ひな薪の木口も初しぐれ
くしやくしやに犬撫でてみる冬ごもり