11月某日
邑書林より短歌版の『新撰21』が企画されているそうである。
いつ頃刊行されるのかわからないが、一体どのような顔ぶれとなるか、いまから楽しみなところ。
11月某日
中村光三郎句集『春の距離』(らんの会)を繙読。
著者は、1945年愛知県生まれ。1999年「らん」入会。今回の句集が第1句集となる。序文の担当は関悦史。
桃二つ一つは無言のためだけに
梅を干す笊はきままに空を飛び
捨て白菜ひっそり髭の生いにけり
陽の射して凍土どこかであくびせむ
春の駅かけそば食らうソクラテス
中尾寿美子の俳句を読んだ衝撃から句作を始めたとのことである。それゆえであるのか割合に奔放な作風で、時としてありきたりな発想ではまず不可能な作品が飛び出してくるところが面白い。
まだ野蒜あてずつぽうに声出して
春昼を水湧くところまで眠る
初しぐれ五臓六腑にだまし絵も
鳶ふいに人の顔して人を打つ
どこにでもある裏道で鰐を踏み
11月某日
堺利彦『川柳解体新書』(新葉館出版 平成14年刊)と小池正博・野口裕『五七五定型』第5号をご恵贈いただいた。
主に現代詩、短歌、俳句を取り扱っている「七曜詩歌ラビリンス」であるが、ここで川柳も取り上げよ、というお達しであるのかもしれない。
しかしながら、川柳の世界というのも単に自分が怠惰なだけなのかもしれないが、なかなかその動静がはっきりと見えづらい、というのが実感である。
12月某日
今月になって、さらに川柳関係の同人誌である『バックストローク』36号が届いた。
同人に、樋口由紀子、小池正博、渡辺隆夫、湊圭史、筒井祥文、清水かおり、丸山進、石田柊馬、畑美樹、石部明など実力派が名を連ねている。今号で終刊であるとのこと。
主に作品と作品評、そして、バックストロークin名古屋「川柳が文芸になるとき」(司会 小池正博 パネラー 荻原裕幸 樋口由紀子 畑美樹 湊圭史)というシンポジウムの発言内容が掲載されている(シンポジウムの様子の写真が掲載されているが結構人が入っている)。
これが非常に興味深い内容で、終刊号を飾るにふさわしい内実を有しているのではないかと思われる。川柳の内と外、内輪意識ゆえの作品の均質化の問題、インターネットと川柳の関係、現代詩・短歌・俳句・川柳といったそれぞれのジャンルにおける規範性の有無、川柳における基礎的な作品集成(アンソロジー)の不在、といった問題等々。
また、掲載されている作品を読むと、いまさらながらであるが、川柳もなかなか面白いと思われるところがある。
青痣のよくよく見れば九月なり 樋口由紀子
木枯しが来るとき君はスノビズム 小池正博
アメリカンコーヒーに浮く青い鳥 湊圭史
箸置きに箸を置いたら明日になる 筒井祥文
草叢を飛び交っている金属バッタ 富山悠
ありきたりビンに入った船流す 兵頭全郎
無人島マリリンモンローノ―リターン 丸山進
6月を磨いて王に叱られる 井上しのぶ
寸分も違わず向いてくる魚雷 高橋蘭
温帯性低気圧になったら別れよう 浪越靖政
長い長い長い無蓋車 渚にて 石田柊馬
遠くまで行って帰ってゆく器 畑美樹
12月某日
今年も俳句、短歌、現代詩と年鑑が刊行された模様である。
主に俳句を書いている身であるのだが、思えばもう何年もの間「俳句年鑑」というものを直接購入したことがないという体たらく……。
12月某日
最近の俳句関係の刊行物をいくつか。
- 中村光三郎『春の距離』(らんの会)
- 角川春樹『白い戦場―震災句集』(文学の森)
- 『須原和男句集 現代俳句文庫68』(ふらんす堂)
- 山本洋子『白牡丹』(ふらんす堂)
- ひらのこぼ『名句集100冊から学ぶ俳句発想法』(草思社)
- 石田修大『我生きてこの句を成せり―石田波郷とその時代』(本阿弥書店)
- 倉田紘文『高野素十『初鴉』全評釈』(文学の森)
- 週刊俳句編『子規に学ぶ 俳句365日』(草思社)
- 岸本尚毅『虚子選 ホトトギス雑詠選集100句鑑賞・秋』(ふらんす堂)
12月某日
最近の現代詩関係の刊行物をいくつか。
- 『現代ギリシア詩集』(土曜美術社出版販売)
- 『チェスワフ・ミウォシュ詩集』(成文社)
- 須藤洋平『あなたが最期の最期まで生きようと、むき出しで立ち向かったから』(河出書房新社)
- 馬渡講一『どうしよう』(ふらんす堂)
- 小笠原眞『初めての扁桃腺摘出術』(ふらんす堂)
- 『日高てる詩集 現代詩文庫194』(思潮社)
- 佐々木幹郎『明日』(思潮社)
- 秋山基夫『薔薇』(思潮社)
- 長田弘『詩の樹の下で』(みすず書房)
- 『GANYMEDE(ガニメデ)』52号(銅林社)
- 『イリプスⅡnd』第8号(澪漂)
12月某日
最近の短歌関係の刊行物をいくつか。
- 松平盟子歌集『愛の方舟』(角川書店)
- 飯沼鮎子歌集『ひかりの椅子』(角川書店)
- 『稲葉峯子歌集 現代短歌文庫94』(砂子屋書房)
- 『米口實歌集 現代短歌文庫96』(砂子屋書房)
- 『落合けい子歌集 現代短歌文庫97』(砂子屋書房)
- 『梅内美華子集 セレクション歌人』(邑書林)
12月某日
ひらのこぼ『名句集100冊から学ぶ俳句発想法』(草思社)を繙読。
内容としては、
1 高浜虚子『五百句』
2 白濱一羊『喝采』
3 西村和子『鎮魂(たましづめ)』
4 守屋明俊『日暮れ鳥』
5 津川絵理子『和音』
6 金子敦『砂糖壺』
7 徳川夢声『雑記雑俳』
8 小野恵美子『鏡浦(きやうほ)』
9 伊藤伊那男『知命なほ』
10 大山文子『手袋』
11 能村登四郎『枯野の沖』
12 久場征子『雪片』
13 飯田蛇笏『山廬集』
14 森賀まり『瞬く』
15 内田百聞『百鬼園俳句』
16 西山睦『火珠(ひしゆ)』
17 黒田杏子『日光月光』
18 和田耕三郎『青空』
19 矢島渚男『梟のうた』
20 皆吉爽雨『雪解』
21 飯島晴子『平日』
22 結城昌治『歳月』
23 清水径子『鶸(ひわ)』
24 大場佳子『何の所為(せゐ)』
25 樋口由紀子『容顔(ようげん)』
26 河西志帆『水を朗読するように』
27 三好潤子『澪標(みをつくし)』
28 仙田洋子『子の翼』
29 谷口摩耶『鍵盤』
30 仁平勝『黄金(おうごん)の街』
31 片山桃史『北方兵團』
32 寺田京子『日の鷹』
33 あざ蓉子『天気雨』
34 永井荷風『荷風句集』
35 石田あき子『見舞籠』
36 松本たかし『松本たかし句集』
37 相馬遷子『山国』
38 仁藤さくら『光の伽藍』
39 津沢マサ子『空の季節』
40 中田尚子『主審の笛』
41 三橋敏雄『まぼろしの鱶』
42 井上弘美『汀』
43 小豆澤裕子『右目』
44 篠原鳳作『海の旅』
45 栗林千津『鮫とウクレレ』
46 柿本多映『花石』
47 星野麥丘人『雨滴集』
48 渡辺鮎太『十一月』
49 吉本和子『寒冷前線』
50 こしのゆみこ『コイツァンの猫』
51 鷹羽狩行『十五峯』
52 中村吉右衛門〈初代〉『吉右衛門句集』
53 角川源義『ロダンの首』
54 岩田由美『花束』
55 石川桂郎『含羞』
56 八田木枯『鏡騒』
57 仲寒蟬『海市郵便』
58 西山春文『創世記』
59 吉年虹二『河豚提灯』
60 中西愛『雄鹿』
61 中尾寿美子『草の花』
62 中原道夫『蕩児』
63 藤木倶子『淅淅(せきせき)』
64 神生彩史『深淵』
65 小沢昭一『変哲』
66 成田三樹夫『鯨の目』
67 高橋悦男『摩訶』
68 小寺勇『大阪とことん』
69 永方裕子『麗日』
70 岸田稚魚『萩供養』
71 山口青邨『雑草園』
72 奥坂まや『縄文』
73 小笠原和男『年月』
74 土肥あき子『夜のぶらんこ』
75 攝津幸彦『鳥屋(とや)』
76 花谷清『森は聖堂』
77 高田正子『花実』
78 清水凡亭『繪のある俳句作品集』
79 小澤克己『花狩女』
80 久保田万太郎『流寓抄』
81 大木あまり『星涼』
82 川島葵『草に花』
83 夏井いつき『伊月集 梟』
84 大牧広『父寂び』
85 田辺レイ『鱧の皮』
86 武原はん『武原はん一代句集』
87 加藤かな文『家』
88 北野平八『北野平八句集』
89 柴田佐知子『垂直』
90 橋間石『和栲(にぎたへ)』
91 ドゥ―グル・J・リンズィー『むつごろう』
92 宇多喜代子『記憶』
93 安住敦『歴日抄』
94 日野草城『花氷』
95 金原まさ子『遊戯(ゆげ)の家』
96 遠山陽子『高きに登る』
97 吉屋信子『吉屋信子句集』
98 草間時彦『盆点前』
99 水上博子『ひとつ先まで』
100 成田千空『地霊』
といった100冊もの句集が選出され、さらにそこから句集の特徴やポイントをコンパクトに纏め上げた、なんとも骨の折れる作業を集成した労作となっている。
1冊の句集に対して、見開き2頁の分量が割り当てられており、句集の中よりその作風を象徴するような作品を5句選出し、それぞれの句に120字程度の解説が付されている。
俳句の発想に主眼を置いた初心者及び中級者向けの本とのことで、この100冊の句集の選出については、特にとやかくいうような性質のものではないのかもしれない。というよりも、むしろそれゆえに専門的な俳句書(というと少々語弊がありそうだが)とは異なる句集の選択の幅や自由度が獲得されている部分があるといえそうである。
ともあれ、全体的に読みやすく、色々と発見があるのは事実。
また、このアイデアを拝借して、これまでに刊行された句集の中から100冊を選び出してみるのも面白いかもしれない。
12月某日
関悦史句集『六十億本の回転する曲つた棒』と『俳コレ』(週刊俳句編)の2冊が邑書林から刊行されたが、今月は時間切れ。また次回に取り上げることにしたい。