
リヨン市街地 峯澤 典子
ベルクール広場で会えばさらされて炎天のふたり欠けた両翼
死ぬ間際あなたの胸に眠るのは盲いるまえに見あげたピエタ
西の駅一夜だけ会うひとがいてさびしい鎖骨ゆえに愛した
冷えたくちをかさねたあとの横顔は死後の鏡にうつる白桃
幾千の蠟燭で頰あたためて花から花へ歩くマリア祭
ローヌ、ソーヌ、兄妹のように似た河の母音のなかへ沈むオリオン
空を食む羊の群れを追うきみの目の果てに建つ塔に住みたい
この頰は落ち葉のようなゆびさきが寄りそうためにただ存在せよ
手をとって路地の途中で彷徨えばまぶたのうえでゆれる岸の火
まだ眠るひとと別れて市街地へ降る花は降る記憶の窓から