蘂と顔 小原奈実
空の
虻の胴突如浮きをり初夏の眼にみえゐるものはすくなけれども
曇天はけぢめなく暮れ路ごとに樹のはなどきの憶えある街
室内の像の彩度をつよめゆく窓よカーテン引きて夜とせり
鏡ありきちかぢかとみてみづからの顔に黒子を見出でて泣きし
海老の
睫毛ほどちひさき針の時計にてくるしきときは己が脈とる
百合に蘂、生者には顔 空間に掲げて何のおとなひ待たむ
ほんたうにこの世は五月さへづりのそれぞれに聴く梢のたかさ
作者紹介
小原奈実(おばら・なみ)一九九一年東京生まれ。東京大学本郷短歌会所属。