ゆびとくちびる 栗原 寛
螺旋階段おりてゆく夜きみの見てきたものを僕もこの目に見たく
明るすぎる新宿をゆく飲みさしの缶コーヒーが冷めるはやさで
花のかたちひどくくづれていちまいの花びらはわれを離れてゆきぬ
雑踏に花びらひとつあかあかといづれふみしだかれてゆくため
鏡のなかに目と目とをそつと合はせたらふりだしにもどる僕の今夜は
上半身のみうつりゐれば下半身は馬にても山羊にても知る由はなし
この夜のぬくもりとなるただいちど僕の手にきみが触れたることが
さつきまでの笑顔しまつて歩きだす街のなかへと溶けこむまでを
夜を深くつもれる雪のつつましくうしろすがたを白くつつめり
許されるやさしさと許されぬやさしさとふたつ触れをりゆびとくちびる