朝はやさしく 小島 一記
裸木の欅の罅に湿りたるひとところあり朝はやさしく
植込みの隅にしきりとマーキングしたがる犬を呼びて撫でおり
洋菓子を遠回りして買いて行く入院したる同期に会うため
「堅いね」とあなたは笑う白妙のナースステーションに名刺を置けば
病院の個室の人と近況を聞きあう20代最後の日のことなど
新人の頃のタバコの銘柄が思い出せず歯を見せて笑う
病名は3センテンスに跨りて窓からのぞく雲の連続
あらかじめ完治例なき難病と知りて行きしが動揺したり
親しき同期という距離感は守りつつ寒くて咲かぬ梅を見下ろす
面会の時間内にて出てきぬスワンボートを漕ぎ急くように
作者紹介
- 小島一記(こじま・かずき)
略歴:名古屋市生れ。「まひる野」所属。