朝はやさしく   小島一記

朝はやさしく   小島 一記

裸木の欅の罅に湿りたるひとところあり朝はやさしく

植込みの隅にしきりとマーキングしたがる犬を呼びて撫でおり

洋菓子を遠回りして買いて行く入院したる同期に会うため

「堅いね」とあなたは笑う白妙のナースステーションに名刺を置けば

病院の個室の人と近況を聞きあう20代最後の日のことなど

新人の頃のタバコの銘柄が思い出せず歯を見せて笑う

病名は3センテンスに跨りて窓からのぞく雲の連続

あらかじめ完治例なき難病と知りて行きしが動揺したり

親しき同期という距離感は守りつつ寒くて咲かぬ梅を見下ろす

面会の時間内にて出てきぬスワンボートを漕ぎ急くように

作者紹介

  • 小島一記(こじま・かずき)

略歴:名古屋市生れ。「まひる野」所属。

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「作品 2012年5月4日号」の記事

  

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