人体と植物 中山洋祐
認知症が脳に根を張り夢の木のような身体の老女を運ぶ
病とは自らの影か発熱の子が振り払う腕より影伸ぶ
地表から吸い上げし雨を咲かせつつ百日紅の花ほのかに明るむ
うどん食む子の指先はふと止まり不意にわれの瞼に触れる
飛び降りし男はカラフルなスニーカー脱がされぬまま運ばれてゆく
遺伝子を変異なく増殖させるため「安全地帯」の卵と牛乳
父は老いをしずかに踏みぬ黒き靴光らせながら曲がる踊り場
子が眠る夜更けに暗い微笑みのような匂いの茗荷を刻む
夜の音は研ぎすまされて薔薇の葉が触れられるのを拒む声する
若者の消える世界の底辺に踏まれながらも酸素吐く花
作者紹介
- 中山洋祐(なかやま・ようすけ)
かりん所属