ほたるの言葉 中川宏子
幾百のたましひ
ほたる火は
夏の夜に果てしもあらず飛び交ひてまろき光を放てる蛍
雄は飛び雌は草辺に瞬ひてファムファタール ファタリテド“
遠くより光りつづけてしづかなる蛍のすつと闇にとける
あをがかる蛍のひかりに囲まれてあの世の河の波の間にゐる
小振りなる平家ほたるは草むらに敦盛のごと潜みをりたり
星ぢやなく蛍火でいい遠くより喩で送られるきみの想ひは
ひそやかに私の傷を縫ふやうに光とびきて前を過ぎゆく
お互ひにほたるの言葉拾ひあひ楡の木の下お逢ひしませう
作者紹介
- 中川宏子(なかがわ・ひろこ)
結社「未來」所属