萩の庭、夕食の前 棚木恒寿
傍らで萩盛り上がる昼の径
滅ぶ前のように白萩咲く庭をわたしも人も賞でながらゆく
大気圧肩に置かれいている朝ぞわがからだ秋にふちどられゆく
まことしずかな空にしあれば人間の脚のごとくに虹は残れり
無花果に啜られていしはわが口か寝ねんとすれどなお口ひらく
秋の雲にも重力はかかるということを萩咲く寺で思えりき、しばし
冷えている眼鏡フレーム双子のままおじいさんとなっているふたりの
周到に来ている秋と思うときどっとあふれて彼岸花咲く
腰高の万両に実は灯りいてけじめもあらず午後が更けゆく
秋刀魚を買って帰ると君よりメール来て止まっていた青鷺を動かす
作者紹介
- 棚木恒寿(たなき・こうじゅ)
一九七四年香川県生まれ。音短歌会会員。歌集に『天の腕』(ながらみ書房・二〇〇六年)がある。