ともあれ 小潟水脈
各々がメール打ちゐし男女立ち茶房出る時手をつなぎたり
「風呂はよろし」の大滝先生既に亡くテナントビルのクリニック増える
傘取れば数日前から傘にゐし蜘蛛落ち箒の毛屑となりぬ
暗き窓にわが首ひとつ流れたり電車ゆるゆる車庫へと動く
待合室に各々床見る誰の名も呼ばれず医師が出て「どうぞ」とふ
粉雪か霧雨みぞれか窓に見る 等身大で行くしかないな
自転車のサドルに幾粒載りてをり今日のあられはゆつくりと降る
ニュースには三本締めとガンバローともあれ年明け三日が過ぎる
ココラとふ店の名の意味知らぬままココラカレーを駅ナカに食む
今少し明るき五時なりペンを置く年始の休みは誕生日まで
かくしごとしてゐるのかと問はるるは「書く仕事」のことカウンター席に
わが顔、胴も別々の人らに見られゐむホールの鏡に幾列の人々
作者紹介
- 小潟 水脈(をがた みを)
1962年生
1985年 グループ誌に参加して歌作を始める
1996年 小冊子「プロムナード 風想」刊行 約140首を収める
1999年 「りとむ」短歌会に入会
2003年 歌集『空(くう)に吸はるる』刊行(青磁社)
2012年 歌集『扉と鏡』刊行(ながらみ書房)