ガジュマルの息 春野りりん
早春のひかりの裾をととのへむカーテンをゆるく巻き寄せながら
きさらぎの
くろがねの橋越ゆるとき長調にうたをかへたり快速電車は
うらがへり影をさらせるゆりかもめ河は光をたばねて走る
純白の名刺つぎつぎいただきて手のひらに咲く花金鳳花
花束を受けとるひとと渡すひと水脈うつくしくひな壇に会ふ
短歌とのなれそめを聞きさしぐみぬ前傾にこころ語れるひとの
硝子器に杏仁どうふは満ちてをりたしかなる春の界面張力
しろかねの匙に掬はれつかのまを在るわれならむアマレットかをる
すわり雛、立ち雛うかべおぼろ夜を列車の窓はわたりゆくかな
下泣きのやうに降る雨スプリングコートの襟を立ててあゆめり
ノイシュヴァンシュタインのいばらノイローゼ棘もつものを撫でよ春の雨
ガジュマルの星夜の息のふかぶかとひと日を生きて窓に凭りたり
作者紹介
- 春野りりん(はるの りりん)
2005年初秋に作歌をはじめる。「短歌人」同人。東京在住。